
2025年8月11日
中国のドラムコンテスト2025
夏は中国ではドラムコンテストがたくさん催されて、よく私にも審査員としてお鉢が回ってくる・・・
去年は「中国好鼓手」という中国最大のコンテストだったが、
(その時の話はこちら)
今年はカノープスというドラムメーカーの主催のコンテスト!!(だと思う)
この決勝戦の前に安徽省合肥での予選にも参加して来たが、いやーやはり決勝戦はレベルが違う!!
これは未就学児の部門なのだが、この4歳児、おそらくシード扱いされたのだろう、もう「ゲスト」として私なんかと一緒にステージで叩いていた・・・
そして今年は小学生の部が凄かった!!
この少年は後にグランプリ(ひとりではなく複数が受賞する)を受賞することとなる・・・
その他、動画を撮れた参加者だけでも・・・
など、去年の段階では「騒音」にしかきこえなかった曲が(流行り廃りがあるのか、コンテストで受かりやすい曲があるのか、演奏曲は去年と同じ曲もたくさんあった)今回は「どう叩いているのか」が聞き取れる!(◎_◎;)
やはり去年のコンテストではちゃんと叩けてないのが多かったのだろう・・・
今回極め付けはこのメガネの子・・・
残念ながら撮り損ねたが、この後に続く3連系のドラムソロが圧巻で、思わず満点を入れてしまいましたがなぁ・・・
今回の決勝戦は、私は最終日とその前と2日間参加させて頂いたが、前日のこの子も当然ながら最終決戦に残っていた・・・
少年の部はA ,B ,C,Dに分かれていて、それぞれの最終決戦に残った選手の中から3人がそれぞれ2分間フリーのドラムソロをやってグランプリを選ぶのだが・・・
これが小学生の構築するドラムソロか?!!!!(◎_◎;)
もうだんだんわかって来ているのだが、楽曲内のドラムソロはみな誰かが書いた譜面を一生懸命練習して叩いている(やはり優勝者はそれを自分なりにアレンジしていた・・・先生が指導したのかも知れんが)、しかしフリーのドラムソロはそうはいかん!!
だいたいのスタイルは先生が指導できるにしても、こうして自由に叩くためにはかなりの数の「引き出し」が必要である。
実のところ、私は「ちびっ子ドラマー」が嫌いであった。
子供には「表現すべき自分の人生」がないからである。
でもこの日から私の考えが変わった。
彼らのこの短い人生・・・たかだか10年ぐらいのその人生のほとんどは「ドラム」なのだ。
それが伝わって来た瞬間に、フィルターが取り除かれて大人のドラムと同じように感動した。
トイレに行った隙に、とある参加者の親子に捕まった。
お母さんが私にこう言う・・・
「あなたが削った1点のおかげでこの子は入賞できませんでした。一体どこが悪かったんですか?」
辛い点数を入れた審査員を責めている口調ではない。
「来年こそは!!」という強い思いが感じ取れる・・・
私のスタッフのヤオヤオ君が、「審査に落ちて廊下で泣いている子供がいるんです」と言っていたが、この子かも知れない・・・
しかしそんなこと言われても、100人以上の子供の演奏を見て点数をつけているのだ、この子がどんなドラムを叩いたかなんて覚えているわけがない・・・
「審査員によって基準は違うだろうけど、私はね、リズムが正確かどうかに重きを置いて採点しています。私の点数が他の審査員より辛かったとしたら、それは演奏が伴奏に対して正確じゃなかったっていうことだと思いますよ」
その子とお母さんはゆっくりと頷いて会場を後にした・・・
10年にも満たないこの人生を、この子はまた1年ドラムに費やすのだ・・・
今回も強く感じたのだが、このドラムコンテストは「子供のための祭典」、
大人の部など全く盛り上がらないのである!(◎_◎;)
そりゃそうだ、大人になってからドラムを始めて、同じ数年かけて練習したところで、頭の柔らかい子供の数年にかなうわけがない!!
だから大人の部は参加者も少ないし、レベルも決して高くない。
中高生の部もそんなに盛り上がらない。
未就学児の部はあの4歳児を除いてはやはり「たかだか子供」である。
この小学生の部だけが異常な盛り上がりを見せているのだ・・・
そこで大きな疑問が湧いてくる・・・
この小さな天才たちは、大きくなったらどこへ行くんだろう・・・
2008年から中国でこの活動を始めて、全中国100近くのドラム教室を訪問した。
(ブログ記事カテゴリー「全中国ドラムクリニックツアー」)
そこで見た小さな天才たちのほとんどはもうドラムなど叩いていないのだ。
中国の学歴社会、生存競争のために、ドラムなんてやっている場合じゃなくなるのかも知れない。
女の子は恋をしたらドラムなんかやっている場合じゃないのかも知れない・・・
私が出会った小さな天才たちで、今もプロとしてこの国でドラムで食ってるのは、私の知る限りたった二人だけ・・・
じゃあこの小さな天才たちはどこへ行くの?・・・
ひょっとして、大きくなって共産党員(これがこの国では一番の出世)にでもなって、酒場にドラムセットがあったら、上司たちに「僕も小さい頃にドラム習ってたんですよ」とか言ってその超絶テクニックを披露するのだろうか・・・
そもそもが、この小さな天才たちのほとんどは「バンド」をやったことはないし、将来もほぼ「バンド」を組むことはない。
この子たちが大きくなって、私や他のドラマーの仕事をかっさらっていくことなどほぼ皆無なのだ・・・
そして今回気づいたことがある・・・
今回入賞したドラマーのほとんどはとあるひとつのドラム教室の生徒なのだ!(◎_◎;)
その先生がとても優秀なのだろう。
「どうすればコンテストに入賞できるか」というのを知っているのかも知れないし、私のような人間を感動させるんだから、本当にこの子供達の「人生」を引き出せる能力があるのかも知れない。
決して安くないこの参加費を払って、全国から数万人の子供がこのコンテストに参加する。
ひとつのコンテストだけで数億円の金が動くのだ!!
そしてそんなコンテストが中国ではいくつもある・・・
ここで入賞した子供たちは、他のコンテストでもきっと入賞するだろう・・・
そしたらその生徒を有するドラム教室の名前は全国に鳴り響くことだろう・・・
私の行ったドラム教室の中で一番大きな教室には生徒が2000人いると聞いた・・・
あるチェーン店展開してる教室の「先生にドラムを教えに行く」という仕事では、全国のその教室から先生が300人来ていた・・・
「これって中国で一番大きな教室だよね?」そう聞いたら「いや、4番目ですよ」と言われた・・・
そもそも2000人いる生徒がひとり5000円の授業料を払っただけで、その教室の年商は1億を超えるのだ・・・そんな教室が中国にいくつある?(私は1万はくだらないと思っている)
中国で既に巨大な産業となってしまった「ドラム教育」・・・その出口は・・・ない。
日本人の誰もが想像できない単なる・・・「習い事」でしかないのだ!!