
2025年5月25日
古琴との戦い(後編)
前回の続き〜
さて血気盛んに済南へ〜
私が拠点としている寧夏回族自治区銀川からこの山東省済南までは、直行便は夕方着の一本しかなく、必然的にレコーディング前日の前乗りとなり、「前日に着くのならば」ということで顔見せお食事会〜
山東省は淄博(ZiBo)というところが串焼きで有名だが、ここ済南の串焼きもそれに負けないほど美味しいんだよということで串焼き!!
山東省の規則というわけで飲むのは白酒!!
ちなみに山東省は人口に対する白酒の消費量が中国いち!!つまり世界一!!
「この酒は白酒の中でも度数が低いから」と言うがそれでも43度(>_<)
ちなみに白酒をじゅうぶん飲んだ後には水代わりにビールを飲むのは許される(笑)
酒を飲み交わすにつれお互いから笑顔が・・・
長く中国と仕事して来て、昔はよく「中国ビジネスは胃袋でする」と言われたもんだが、こうして経済発展を遂げてからもそういう名残りはある。
一見ビジネスには全く関係ないような、この「酒を飲み交わす」という作業が、翌日のレコーディングでのやり取りを非常にスムーズに持ってゆくのである・・・
何やら荘厳な門構え・・・
1909年創立・・・ということは中国はまだ清の時代・・・
厳かに家系図が掲げられている・・・今日一緒にレコーディングする王笑天老師は、創始者から数えて6代目の家元であるということだ!(◎_◎;)
着いたらまずお茶を入れてくれる・・・これも厳かに・・・
前日酒を酌み交わしてなければここで心臓が破裂しそうなものだが・・・
和気藹々(笑)
数多くの古琴の中から一番古いやつを出して来て裏側を見せてくれる・・・
明代のだと言うからざっと400年以上前のものである!(◎_◎;)
スタジオを取ってそこでレコーディングというのも考えたのだが、これら国宝級の楽器、それから楽器を共鳴させる専用の机も一緒に運ぶというのはどうかということで、ここの一番静かな部屋で録ることにしたのだが、案の定一番いい机は石で出来ていて運ぶことが出来なかった。
師匠(今後こうお呼びしよう)が選んだ楽器と机でいざレコーディング開始!!
レコーディングエンジニア(ワシ)とのガチのセッションである・・・
さて、楽器をアレンジするためにはその楽器の特性を熟知することが必須であるが、私がこの楽器によるいろんな演奏映像を研究した結果、この楽器のキーはFなのだが、チューニングを下げた他のキーの演奏も多く発見した。
今回レコーディングする曲のキーはE。ギターにとっては弾きやすいキーなのだが、この古琴もチューニングを半音下げるだけなので簡単だろうと思っていたら・・・「Eのキーでやることはほぼない。Ebだったらあるけど・・・とのこと・・・
向こうにとっても「異種格闘技」である。色んな妥協をしてくれて、結局何百年モノの明代の古琴をEチューニングにしてセッション開始・・・
ところが、あるポジションを押さえた時にイヤな倍音が出るという問題が発覚・・・
「こんなことは一度もなかったのだが・・・」と師匠も困り顔・・・
そうこうしているうちに弦が切れた!(◎_◎;)
まあ弦楽器なのだから弦が切れることもあるだろうが、これもあまりないことのようで師匠も驚いている・・・
今まで変な倍音が出たことがなくて今回初めてなのだから、原因はおそらく今回初めてのこと・・・つまりEチューニングによる弦の微妙な緩みによるものではなかろうか・・・
そしてこの明代の古琴は、それを示唆して自ら弦を切ってE調を滅したのではないか・・・
などファンタジーなことも考えつつ結局F調で録ることにした!!
最近の機械は優秀なので、後で機械的にEに直すことも可能だろう・・・
というわけでF調のガチのセッション終了!!
師匠は私に古琴の教材を一冊プレゼントしてくれて直筆のサインをくれる・・・
そして祝杯!!(笑)
そこで師匠は自分の指のタコを見せてくれた・・・
私などがギターを弾いて水ぶくれが出来てしまうのと違って、これは長年弦を指の同じ位置で押さえているために石のように固くなっているのだ。
柔らかい指で押さえるのと違って、もしボトルネックを使って押さえてたらと考えれば想像がつくだろう、やはり音色が全く違うのだ・・・
師匠、ちょっと酔っ払ってこんなことも言ったりした・・・
「私はこの酒狂という曲はね、実は専門外なんだ。でもね、あんた達が探して来たお嬢さん達に比べたらレベルは段違いのはずだよ」
6代目家元のプライドが垣間見えた発言だった・・・
師匠が私の書いた譜面を自分が弾くために書き直した走り書き・・・
どうやら左上の漢字は指使いらしい・・・こうやって奏法を固定するのね・・・勉強になった・・・
後日談・・・
これを持って帰って色々Editして、F調でDEMOを作ってみんなに聞かせた。
「お、いいじゃん!!」・・・みんな大喜びなのでそれをE調に直した途端・・
「全く良くない!!」
結果、古琴はF調のままで、バンドが全員F調で録り直すことになった。
あの明代の古琴が、「古琴はFだよ!!頑張ってそれに合わせなさい!!」と言ってるような気がした・・・