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爆風スランプトリビュートアルバム WeLoveBakufuSlump

2008年3月28日

Funkyスタジオ八王子

ワシは金には縁がない。

爆風全盛期のころにその莫大な収入をその年のうちに使ってしまい、
翌年には税金が払えなくて借金したと言うのは有名な話である。

江戸っ子でもないのに宵越しの金は持たず、
貯金をしたこともなく、
不動産とかに投資をしたこともない。

人生そのものが「博打」みたいなものなので賭けごともやらず、
商売とやらもいやな思いしかしたことないので、
これはきっと神様が「お前はそんなことやるな!」と言っているとしか思えない。

先日なんかドルが非常に安くなってたので、
XYZのアメリカツアーのために安いうちにドル貯金をしとこうと
口座を開設して入金した次の日にはもっと下がっていた。

「じゃあもうちょっと貯金しときましょうか」
さすがに損したと言う気持ちがあるので
これ以上はいくら何でも下がりはしまいとばかり更にドル貯金をすると、
何とその後すぐに史上まれに見るほどのドル安となった。

さすがに本当にもうこれ以上下がるはずはないだろうから
今回来日した時にまた更にドル貯金してもいいのだが、
その神様のポリシーにより更にドルが下がった暁には日本経済はガタガタになってしまうだろうから、
世のため人のため、世界平和のためにもうやめた。

そう、ミュージシャンは貯金なんかしたらあかん!
江戸っ子じゃなくても宵越しの金なんぞ持ってはいかんのである!


と言うわけで買い物をした。
二井原が「近所に安い物件が売りに出されてるでぇ」と言うので、
そこを買ってスタジオにしてしまおうと言うのである。

二井原の大邸宅がある八王子は、
一応東京都であるにもかかわらず、土地が非常に安い。
過疎化が問題となっている高知のうちの実家のマンションと
同じ値段でここでは一戸建てが買えると言うのである。
八王子は高知と一緒か!いやそれ以下か!!!と言いたくなる。

二井原大邸宅には何度か泊めてもらったことがあるが、
まあ言わば日本と言うよりはカリフォルニアである。
車がなければ生きてゆくことは出来ない。

閑静な住宅街、
自然が多く、空気もよい。

朝は探索を兼ねてその辺をジョギングした時の話。
近所に小川があり、澄んだ水には魚も泳いでいる。
川っぺりの道を走っていると、
川の中に何やら鳥のオブジェのようなものを発見した。

鶴?・・・いやいや一本足で立ってるからフラミンゴ?・・・

どっちにしろセンスがいい。
公園にタヌキやパンダのオブジェを置くのとは雲泥の差である。
その正体を見極めようと近くに寄ってみると、
いきなりそのオブジェが羽を広げて飛び立った。

この街はこんな大きな野生の鳥が生息してるんか・・・

こんな理想とも言える住宅地にスタジオなんか作ってええんかい・・・
北京のスタジオは周りが全部ロックミュージシャンなので防音なんてしてないが、
こんな閑静な住宅地でそれをやったら間違いなく警察沙汰である。

「ファンキー、いくらなんでも防音はせなアカンでぇ」
このスタジオをXYZスタジオとしてしまい、
レコーディングから、果てはリハーサルまでを全て近所でやってしまおう
と虎視眈々と狙っている二井原が、インターネットで業者を探して来た。
録音機材から本格的スタジオ施工までをこなすプロフェッショナルな会社である。
家のカギは二井原が持っているので、業者を呼んで見積もりを出してもらった。

「機材込みで総額1000万?!!!」

ヘドが出るほど驚いてしまった。
機材で400万ぐらいはかかるだろうとは思っていたが、
なにせ北京のスタジオは防音工事代がゼロだったもので、
どうも器材より高い防音工事と言うのがどうしても感覚的に解せない。

「もっとまかりませんか」

担当のM氏は年のころはワシらより少し若いぐらいであろうか、
完璧にラウドネス、爆風世代である。
「私の青春を飾ってくれたお二方のためなら死ぬ気で安くしましょう」
頼もしい言葉を残して図面作りに入る。
ドラム録音からミックスダウンまで出来るスタジオにすべく、
機材やドラムブースにいろいろ注文をつけるワシ。
夜中にパジャマでやって来てそのままリハーサルが出来るようにすべく、
防音関係にいろいろ注文をつける二井原。
かくしてM氏の命をかけた見積もりが出た。

「総額1200万」
上がっとるやないかい!!!

まあそれもそうである。
M氏が言うには、これだけ閑静な住宅地でドラムが叩けるようにするには、
そしておまけにヘビーメタルのような音楽をやろうなどと思ったら、
防音だけで少なくとも800万はかかってしまうのはいた仕方ない、と。

「もっとまかりませんか」
ひつこく食い下がるワシ。
何度も図面を引き直すM氏。
しかしどこをどのようにいじっても最終的に値段はそれほど変わらない。

「ではご予算は一体おいくらなんですか?」
M氏から最終的に泣きが入る。
「そうですねぇ・・・北京のスタジオが400万ぐらいで出来たんで・・・
なんとか400万ぐらいで出来ればありがたいんですが・・・」
親身になってまた図面を引き直そうとするM氏。
「防音工事を400万と言うのはかなり厳しいですがちょっと頑張ってみます」

「あ、違います。機材と防音合わせて400万っつうことなんですが・・・」

それ以来M氏からのメールの返事が途絶えた。
「怒ったんかなぁ・・・二井原ぁ、どう思う?」
周りの友人にも意見を聞いてみる。

「あんた中国の屋台でばったもんの土産でも買うとるんやあるまいし、
日本で値段交渉を半額以下から始めてどないしまんねん!!」

国際電話で詫びを入れて、再び値段交渉である。
この辺になると、間に立っている二井原が少しナーバスになって来た。

「ファンキー、1000万言うたらやっぱ大金やでぇ。
それをやっぱ土産もんでも買うみたいにぽんと買うのはおかしいでぇ。
俺、少なくてもやっぱそこまで責任持てんわ。
もっと冷静に考え直して見るべきなんとちゃうかなぁ・・・」

パジャマ姿で歩いてレコーディングスタジオは頭で考えたら素敵な夢だが、
こうして生々しい現実に晒されてみると恐れ多い夢と言うことである。
実際北京のFunkyスタジオは理想そのものである。
ウェイン・デイヴィスにセッティングしてもらった世界最高の音が
目が覚めたらそのままパジャマのままで録音出来るのだ。
しかもドラム叩き終ったらすぐにビール片手に風呂に飛び込む。
こんな理想があの値段で手に入ったのは
ひとえにここが北京の貧民街であるからであって、
それを世界一物価の高い東京で、
しかもこんな閑静な住宅地で作り上げようと言うのは
これはもう夢を通り越して幻なのかも知れない。

「ほな嫁と相談しまひょ」
少なくとも嫁はワシより常識人である。
子供も生まれて将来にも不安もあることだろう。
いきさつから結論まで細かく嫁に説明した。
そして嫁はこう言った。

「XYZのスタジオ作るんに私が反対出来るわけないやろ。
うちの旦那は飲む打つ買う。
飲むは酒を飲む、打つはドラムを打つ、買うは機材を買う。
もうあきらめとるわ・・・」

嫁の鏡である。
かくしてFunkyスタジオ八王子は着工した。

FunkyStudioZumen.jpg


M氏はこれ以上落とせないまで値段を下げ、
しかも他の現場から余った材料まで持って来て
「最高のスタジオを作らせてもらいます」
と頑張ってくれている。

二井原は日本にいないワシの代わりに工事を監督し、
100円ショップで末吉のハンコを買って、
電気、ガス、インターネット等の手続きまでやってくれている。

4月末にはスタジオは工事は終わると言う。
今回のXYZのベストに入れる新曲のレコーディングには間に合わなかったが、
今後XYZは無尽蔵に時間をかけて好きなだけアルバムを作ることが出来る。

二井原も別にラウドネスで使ってくれてもいいし、
橘高も筋少で使ってくれてもいい。
和佐田もあれだけプロジェクトを抱えてるんやからどんどん使ってくれてええし、
田川くんも東京引っ越して来ると言うならここで住めばいい。
二階にはまだ4部屋余ってるし、
何なら金のないバンドは泊まり込みでレコーディングすればよい。
二井原がきっといいプロデュースをしてくれるじゃろう。

うん、これでいいのだ!
世のため人のため、ロックのためである。

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2008年3月17日

Kちゃんの物語その2

私の携帯の番号は、私が携帯と言うものを手にしてから一度も変えたことがないので、
時には思いもよらぬ古い友人から電話がかかる時もある。
番号表示で誰だかわかる時もあるし、
声を聞いてやっとわかることもあるのだが、

「私よ、誰だか忘れたの?」

と言う彼女の声を聞いた時、とっさにこの声の主を思い出すことが出来なかった。
ひょっとしたら心の奥底で忘れてしまいたいと思っていたのかも知れない。

「私よ!車持ってるでしょ!すぐ迎えに来て!」

迎えに来てったって真夜中である。
「この夜中にのこのこ迎えに行ける人間がどこにいる」とは思ったものの、
その日は嫁も子供も寝静まってひとり仕事部屋で仕事をしてたので別に行こうと思えば行けないこともない。
「どこに行けばいいんだ?実家か?」
彼女の実家にはアッシー(死語)として何度も送り迎えに行ったことがあるので今だによく覚えてはいる。
「バカねぇ。今だに実家にいるわけないじゃん!私もう結婚したんだから。
でも今から家出するの!だからすぐ迎えに来て!」

Kchan4.jpg


今更「あわよくば心」はない。
前回の事件で私は彼女を、いや「女」と言うものの怖さを心底感じてしまっている。
スケベ心よりは好奇心である。

(彼女は結局あの男と結婚したのか?)
(やっぱりあの女を殺したのか?)
(それとも・・・)
いろんなことを考えながら彼女の指定した公園に向かった。

数年ぶりに会った彼女は二十歳の頃と変わらず若々しく、そして相変わらず美しかった。

「行くところがない」と言われたって嫁も子供もいる私の家に転がり込まれても困る。
例え彼女のことを好きだったのは今は昔であろうともである。
とりあえずめったに帰って来ない友人のアパートがあるので
彼女を紹介してしばらくそこに住まわせることにした。

そこでゆっくり話を聞いた。

聞けば殺傷事件にまでなってしまったその昔の男は、
その原因となったその女とその後も切れずにいたらしい。
私から見たら命知らずの男なのである。

「何か私ってどんなことされても我慢してついてくる女に見えるらしいの」

彼女はある意味ではそう言う女である。
その男が他の女に手を出しさえしなければ平穏無事な幸せな家庭を築けたかも知れない。
しかし男は女と切れなかった。

それじゃあ予告通り彼女はその女を殺したのか?・・
いや、修羅場はそれ以上続かなかった。
新しい男性が現れ、失意の彼女を慰め、
そして彼女と結婚したのである。

その旦那は見事に彼女を救い、
そして結果的にはその女の命までをも救ったと言えよう。


しかし男とはどうしようもなくアホな生き物であると言うべきか、
はたまた彼女はとことん男運が悪いと言うべきか、
運命は再び繰り返し、悪いことにまたこの旦那が浮気をしたのである。

今や私なんぞ、
「こんな女を妻にして浮気なんぞしようものなら命がいくらあっても足りないぞ」
と自己防衛本能が素直にそう思わせるのだが、
当の旦那はどうもそんなこと夢にも思わないらしい。
昔の男も、そしてその旦那も、
私の見た彼女のあの恐ろしい面はまるで見ることが出来ないのである。

私があの時見た彼女、
あの極端なまでの冷静さで殺人を遂行しようと言う恐ろしさは、
実は決して人からは見ることが出来ない「Dark Side Of The Moon」だったのではあるまいか。
実はそれはまだ誰も見たことがなく、あの時私にだけ見せたものだったのではあるまいか。

だから今回も私を呼び出したのではあるまいか。
その「Dark Side Of The Moon」を見てしまった私を。
それを見せられる唯一の人間である私を。

ちなみにピンクフロイドの名盤「Dark Side Of The Moon」の邦題は「狂気」と名付けられている。
後に続く「Crazy Diamond」も「The Wall」も、
全て彼らは「人間の狂気」を題材にその音楽を作って来た。
しかし彼女は違う!
彼女は決して狂ってなどいない。
恐ろしいほど冷静に、「普通」に殺人を遂行しようとしていた。
狂気のかけらなど微塵にも見られなかった。

殺人など激情に駆られてやるもの、
狂気に駆り立てられてやるものだと思っていた私は、
だからこそ身の凍るほどの恐怖を感じた。

彼女があまりに「普通」で、あまりに「冷静」であったからだ。

それはまさに人の心の「Dark Side Of The Moon」。
「人を愛する」とか「尽くす」とかと言う表の部分が、
そのターゲットの裏切りによりそのままその裏側、
つまり「殺す」と言うことになるだけで、
それは激情にほだされてでも何でもない。
彼女にとって、いや人にとってそれは「普通」の行動だったのではあるまいか。

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普段と変わらない様子で彼女は旦那の浮気について説明する。
それは別に普通の笑い話と寸分変わらない言い方である。

「旦那もそうだけどその女もバカだわよねぇ。
そんなことして私にバレないと思ってるのかしら」

そう、彼女は決して頭は悪くない。
むしろ洞察力、頭の回転、女のカン、どれをとっても恐らく人並み以上の能力であろう。
それをフルに稼働して、その女が誰か、名前は何で、年はいくつで、
仕事は何をしていて、職場はどこで、
勤務ローテーションはどのようで、
住んでるところはどこで、実家はどこで、
その電話番号まで全てを既に調べ上げている。

私はまた背筋が寒くなって彼女にこう聞いた。
「まさか・・・また殺すとか言いだすんじゃないだろうね」
彼女はまたそのとびっきりの笑顔でそんな私の心配を笑い飛ばした。
「バカねぇ。私もあの時は子供だったの。
もう殺したりなんかするわけないじゃない」
くったくのないその美しい笑顔を見て私はほっと肩をなでおろした。

するとすかさず彼女、
「死んだ方がましだと思うぐらいの目に合わせてやるの」

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私はまた恐怖で凍りついてしまった。
彼女を絶望から救ったこの旦那は、
また自らの手で彼女の「Dark Side Of The Moon」をひっぱり出してしまったのだ。


それからの彼女は私は心底恐ろしかった。
毎日のようにその女を追いつめてゆく。

「まず仕事をやめさせてやるの」
職場に行く。
その女のローテーションは全て把握しているので、
敢えてその女が出勤していない時間を狙って行く。

「一番偉い人出してちょうだい!
おたくの従業員が私の留守中に私の旦那と・・・」

その女が部屋に残した遺留品をつきつけて、
泣く!喚く!全社員の前、全てのお客の前で可哀想な被害者を演出する。
それを沈着冷静に完璧に演じるのである。

「次は親だわ」
実家に電話をして女の両親に向かって泣く!喚く!
その全てが「感情」ではない、「計算」なのである。

「そうそう、住むところもなくさなくっちゃ」
今度は勤務時間のローテーションを見計らって
アパートでご近所さん、大家さん相手にそれをやる。

やられた方はたまったもんじゃない。
しかも相手は今や家出していて携帯もOFFにしているので捕まえようにも捕まえようがない。
旦那とてたまったもんじゃない。
言いたいことがあるなら自分に言えばいいじゃないかと思ってもその相手がつかまらないのである。

私にその旦那もその女も救うことは出来ない。
何故なら私には彼らと何の接点もないのである。
会ったこともなければ名前すらも知らない。
ただひたすら、時間のある時に彼女を慰め、
気をまぎらわせてやるだけである。

「ほんと、私って男運悪いのかしら・・・」

彼女はちょっと疲れた感じで私にそうつぶやく。
何も特別なことで疲れた感じではなく、
ただ「仕事が忙しかった」とか普通に「生活に疲れた」といった感じでそう言うのである。

それにしても私は何故こうして彼女に世話を焼いているのだろう。
10年近く会ってなくてもすぐにこのように「普通」に会える友人であるから?
それともやっぱり彼女が美しく、魅力的だから?

彼女はその美しい横顔をちょっとこちらに向けてほほ笑みながら言った。
「末吉さん、今でも私のこと好き?」

私は体中に鳥肌が立つほど恐ろしかった。
それほどまでにも彼女の笑顔は美しかったのである。

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その女に対する彼女の猛攻撃は続く、
職場にいようともアパートに帰ろうとも、
そしてたまりかねて友人宅に身をよせようとも、
必ず彼女はそこを突きとめてやってくるのである。

しかも必ず本人がいない時間を見計らって・・・

気も狂わんばかりになったその女は、
結局頼るところは自分が愛人関係にあるその相手、
つまり彼女の旦那のところしかない。
最終的にその女は旦那のマンション、
つまり家出する前に彼女が旦那と住んでたその部屋に転がり込んで来た。

彼女の最終攻撃が始まる。

旦那の勤務ローテーションも完全に把握しているので、
旦那が絶対に電話にも出れない、職場も放棄できない時間帯を狙って、
その女が一人で震えながら待つ、かつての自分のマンションに乗り込んでゆく。

ピンポーン

自分の家なのでカギは持っているのにわざわざ呼び鈴を鳴らす。
女はもう精神を病んでしまっているので出てこない。
女が出てくるまで何度でも何度でも鳴らす。
恐る恐るドアまでやって来てのぞき穴から彼女の顔を見たとたん絶叫した。

「キャー!!!!」

彼女はゆっくりドアにカギを差し込みゆっくりとカギを開けた。

ガチャン

「キャー!!!!来ないで!!!入って来ないで!!!」
女は部屋の中で半狂乱となる。

しかしドアには運良くチェーンロックがかけてあった。
彼女はそのドアの隙間から部屋を覗き込んで優しそうにこう言う。

「開けなさい。ここは誰の家だと思ってるの?」

「助けて!!!誰か助けて!!!」
半狂乱で救いを求めて電話をかける。
救いを求める相手はただひとり、彼女の旦那であるにも関わらず、
その彼はあいにく電話口には出られない。
職場にかけても職場を離れることは出来ない。

彼女はドアの外でゆっくりと自分の携帯を取り出し110番に電話をかける。
「もしもし、警察ですか。
私の家に知らない人が入ってて中から鍵かけて出て来ないんです。
何とかしてもらえませんか」

近所の交番から数人の警官がやって来る。
「中の人!出て来なさい!あなたのやっていることは犯罪です!」
チェーンロックをかけたドアの間から警官が叫ぶ。
半狂乱の女は泣き叫ぶ。
「その人を何とかして!私、殺される!!」

警官が彼女に質問する。
「どう言うことなんですか?お知り合いですか?」
ニコっと笑って彼女は余裕で答える。

「いいえ、会ったこともありませんよ。あの女、頭おかしいんじゃないですの?」

法律的にはこの女は「不法侵入」を犯している。
警察としては最後の手段として、チェーンカッターでチェーンを切って中に入るしかない。
説得すること数十分。
中の女は最後には説得に応じて恐る恐るチェーンロックを外した。

するとドアが開くが早いか中に飛び込むが早いか、
彼女は勝手知ったる自分の家に飛び込んだ。
そして勝手知ったる台所の包丁を掴んで女に切りかかった。

「キャー!!」

警官が数人がかりで彼女を取り押さえて事なきを得たが、
結局はこの事件は三角関係が生んだ痴話喧嘩と言うことで処理され、
切りかかった彼女よりも法律的にはその女の方が罪に問われる。
彼女はただ「嫉妬で逆上した」可哀想な妻にしか見えないのである。

そう、彼女の「Dark Side Of The Moon」を見ていない全ての人間は彼女をそのようにしか見ることが出来ない。
しかし私は知っている。
彼女は「逆上」などしていない。
いつでも「冷静」で、「やるべきこと」を「完璧に」遂行しようとしているだけなのだ。
人を愛し、尽くすのと同じように遂行しているだけなのだ。


「また殺し損なっちゃった・・・」
笑顔でそう私に報告する彼女に私は心底震え上がった。
離婚調停は「絶対に別れない」と言う彼女のかたくなな態度により泥沼化したと聞く。
彼女はまたあの美しい笑顔で私にそう言った。

「離婚なんかするわけないじゃん!だって愛してるんだもん」


それから彼女には会ってない。
だから数日前、また彼女から突然電話があった時には心底びっくりした。
聞けば再婚し、子供が出来、その新しい旦那もまた浮気をしたと言う。

しかし今度は状況は違った。
旦那は泣いて真剣にあやまり、
彼女の目の前でその浮気相手と手を切り、
今も彼女に毎日毎日あやまり続けていると言う。

「でも一生許せないかも知れない」
彼女が私にぽろっとこぼしたその言葉を聞いて私はとても安心した。
これは「感情」が言わせるもので
彼女の「Dark Side Of The Moon」が言わせていいるものではないからである。
その旦那ならきっと一生彼女の「Dark Side Of The Moon」を封じ込めるかも知れない。
そしてそうであって欲しいと心から思う。


人はみなその心に「Dark Side Of The Moon」を持っている。
私の妻に、
そしてこれを読んでいる全ての妻帯者の妻だけにはそれがないと誰が言いきれよう。

それを引っ張り出すか永遠に封印するかは全てはその旦那次第なのである。
Kちゃんの物語、これは決して他人事ではないと世の全ての男性は知るべきであろう。

完・・・(であることを心から願う)

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2008年3月15日

Kちゃんの物語その1

Kちゃんと初めて会ったのは、
彼女がまだ20歳かそこらのピチピチGAL(死語)だった頃のことである。

美貌にも恵まれ、セクシーで明るいキャラである彼女を、
一目見て口説かない男がいたらその顔を拝みたいものだと言うほどのものなのであったのだが、
あいにくと彼女には当時付き合ってる彼氏がいて、
そして彼女自身非常に身持ちが堅く、
それは
「私は最初に付き合った彼氏と結婚する」と言う信念を強く持っているところから来ていたり、
まあ常識ではそこに割り入って略奪したりするのは至難の技であることは明白な事実であるにもかかわらず、
それを無謀にも果敢に食事に誘い、飲みに誘い、
アッシー(死語)となってもメッシー(死語)となってもその想いを遂げようとする若き日の末吉青年がいた。

よくある話で、このような努力は往々にして
「話を聞いてくれる便利なオジサン」
で終わってしまうのが常であるにもかかわらず、
若き日の末吉青年は多額の必要経費と時間と労力を費やしながら、
その「あわよくば」の夢にまい進していたのである。

彼女の口からその彼氏の浮気問題で悩み相談を受けるようになるまでにはそう長くはかからなかった。
悩みを聞いてあげる振りをしながら、
暗に「そんな男とは別れた方が身のためだよ」とほのめかす。
そしてもしも現実そうなった暁には、
当時男友達など私しかいなかった彼女が次に選ぶ選択肢はこの私しかないではないか!悩みを聞きながらそれとなく自分をアプローチする若き日の末吉青年。

しかし彼女はまるでなびいて来ようとはしない。
理由は「どんなひどいことをされようとも彼のことが好きだから」

何と素晴らしい女性ではないか!

美人でセクシーで明るくて身持ちがいい、
そんな理想とも言える女性が初めて出会った男性がどうして私ではなくそのどうしようもなく女癖が悪い男でなければならなかったのか・・・
もう少しで神に恨みごとを言いそうになっていたある日のこと、
その恐ろしい出来事は起こったのである。

「便利なオジサン」とは悲しいものである。
かけた電話は五万回(ウソ)
おごった食事は五万回(ウソ)
使ったお金は五万元(ウソ)
聞いた悩み相談五万回(ちょっとホント)
でもそこまでやって見込みがないものはもう仕方がないのではないか。
さすがにあまりにも実にならない努力は続かないものである。
近所の飲み屋でひとり上機嫌だった私は、
その日の彼女の悩み相談電話を適当にあしらって切った。
彼女の悩みを聞くぐらいなら、もう誰かに私の悩みでも聞いてもらいたいもんだ。
もう既にそんな心境になっていたのである。

だいぶ深酒をして家に千鳥足で戻り、
カギを取り出してマンションのドアを開けようとした時、
そこに誰かがうずくまって坐っているのを見てびっくりした。
見れば彼女である。

「ちょっと上がらせてもらってもいい?」

Kchan1.jpg


真夜中に美女にそう言われて嬉しくない男性がいたらその顔を拝んでみたいが、
それにしても終電でやって来たとしたら彼女は一体何時間ここに坐っていたことなのだろう。
少々気味が悪い気持ちを「あわよくば心」が押しのけて彼女を部屋に上げた。

さて美女と夜中にふたりっきりである。
しかも彼女はわけありの様相。
恐らくはその彼氏の問題であろうことは容易に想像はつく。
そしてそれを相談する男性はこの私。
つまりこれは

ついに今までの私の苦労が報われるに違いないシチュエイションではないか!

逸る気持ちをおさえつつ、腰を落ち着けて話を聞き始める末吉青年。
そしてそれから身の毛もよだつ恐ろしい話を聞くこととなるのである。

「人間ってダメねぇ。いざとなったらやっぱ手元が狂うのよね」
彼女は淡々と語り始めた。
「包丁なんかじゃダメなのよ。どうしてピストル買わなかったのかしら私・・・」
泣くでもなく青ざめるでもなく、
一切興奮することもなく彼女は淡々とこう語り始めたのである。


彼氏は当時で言うプー太郎。
親の実家の隣にアパートを借りて、アルバイトをしながら生活し、
美人でセクシーで明るくて気立てもよく、一途で自分にぞっこんなこんな彼女がありながら、
なんと二又をかけて別の女とも付き合っていた。

そう言うことをうまくやれる男性とそうじゃない男性が世の中には存在する。
彼はまさに「そう言うこと」が下手であった。
彼女はとっくの昔にその女の存在を感じ取り、
そしてその女もこれ見よがしにその存在の痕跡を部屋に残してゆく。
そしてこの日、その全てがいっぺんに噴出したのである。

「その女、部屋にいるんでしょ。電話に出しなさい!」

女と言うのは恐ろしい生き物である。
それを知るのに何の「根拠」も「物的証拠」も必要としない。
「女のカン」と言うものがそれを瞬時に明確に知らしめさせるのである。

こう言う時の「男」と言うものは一体どのようにふるまうのが普通なのであろうか。
「確信」を持っている電話口の彼女に一切のごまかしは通じない。
そして目の前のその女は受話器を握って茫然としている男にこう詰め寄る。

「言ってやりなさい、彼女に。いつも言ってるでしょ、愛してるのは私だけだって」

この男が特に軟弱だったのか、
はたまたこう言う状況に追い込まれた世の男が全てそうするのか、
そんな経験のない私にそれを計り知ることは出来ない。
男がいつまでも決断を下せないでいると、
最終的にその女は自ら電話口に出てこう言った。

「出てらっしゃい!決着をつけましょ!」

彼女は極めて冷静に電話を切り、
極めて冷静に出支度をし、
そして極めて冷静に近所のスーパーで包丁を購入して
その女が待つ彼の家に向かった。
ドアを開け、部屋に入り、極めて冷静にその女の言い分を聞き、
そして勝ち誇ったようにドアを開けて出て行こうとするその女の背中に向かって
極めて冷静に包丁を突き立てた・・・

・・・つもりだった。
しかしいざとなったらわずかながら手元が狂った。
狙った心臓をわずかに逸れ、
かすり傷しか負わせられなかった彼女は
また極めて冷静に包丁を持ち直し、
再びその女に突進した。

Kchan2.jpg


「人殺しぃ!助けてぇ!誰か来てぇ!」
玄関口を飛び出して逃げまどう女をまた極めて冷静に追おうとする彼女を、
さすがにそれまでは借りてきた猫のようにうずくまっていた彼が体当たりでそれを止めた。
騒ぎを聞いて彼の母が駆け付けてきて、息子と一緒に彼女を取り押さえる。
女はコートの下から血を流しながら玄関口で叫び続ける。
「誰かぁ!警察呼んでぇ!殺されるぅ!」

男はこんな現場で一体どのような行動を取るのが「普通」なのであろうか。
全ては自分がまいた種なのに何のなす術もなく彼女を取り押さえるだけの彼。
一番冷静に(但し何度も言うように実は極めて冷静であった彼女本人を除いて)動いたのはむしろその彼氏の母親だった。

取り乱す女の頬をぴしゃりとやって正気にさせ、部屋の中に引き入れて傷口を見る。
軽傷である。
病院に行くまでもないと判断するとその場で応急手当をし、
明日念のため病院に行くように指示し、
「今日のところは私に任せてもう帰りなさい」
もちろん警察に行くなどと言う彼女の考えは完ぺきに思い留まらせた。

「Kちゃん、今日は母屋で泊まりなさい。私と一緒に寝ましょ」
母はそう言って、彼女を優しく抱きとめて一緒の布団にくるまった。
「ごめんね、ごめんね、Kちゃん。うちの息子があんなんがためにあなたにこんな辛い想いをさせて」

しかし彼女はこの母が(例え彼女が事をし損じることがなかったとしても)
彼女に対してこのような態度であろうことは冷静に分析して分っていた。

いや、そのように「持っていってた」と言っていい。

彼女にとっては彼は将来「絶対に」自分と結婚する相手、
その母親とどう付き合うかは彼女は既に彼と交際し始めた頃からシュミレーションしていた。
それは彼女の「愛」であり、「頭のよさ」であり、
そして「完璧さ」であった。

もちろん彼に女がいることも
彼のいないところでその母親と何度も相談をしている。
その男は自分だけが知らないところで既に周りを全て彼女に固められてしまっていたのである。

自分の交際相手の母親をそこまで自分のものにするのは実は非常に難しいことかも知れない。
しかし彼女はその困難なミッションを長年かけて完璧に遂行していた。
母親にしてみたら今や彼女は若いながら「うちのけなげな嫁」なのである。
不肖の息子に泣かされながら一生懸命尽くしている彼女に同性として同情もしていたことだろう。

いや、彼女は少なくとも彼女は「そう見えるように」頑張って来た。
そしてその一挙一投足は極めて「完璧」であった。

「もう落ち着きました。お母さんありがとう。ごめんなさい」

そう言って彼女は彼の家を後にして私の部屋に来た。
もちろん彼女はほんの少しも取り乱したりはしていないので、
「もう落ち着いた」と言うのは少なくとも「ウソ」である。

彼女が私の部屋に来る道すがら考えたことはただひとつ、
「どうして手元が狂ったんだ」と言う唯一の後悔だけである。

彼女が私の部屋に来たのは何も私が恋しかったわけではない。
「どうして自分ともあろう者がこんな簡単なミスを犯したのか」
その原因を自分をよく知る、
しかもこの時間でも迷惑にならない第三者聞いてみたかっただけなのである。

と言ってしまえば非常に簡単なものなのだが、
しかし男女の仲などそんな単純に出来てはいない。
もし万が一、私の「あわよくば心」が、その持ち前の臆病さと状況判断能力を少しでも上回ってたとしたら、
私たちふたりの関係はこの日を境に劇的に大きく変わってしまっていたことだろう。

「あーあ、何で私、あんな男好きになっちゃったのかなぁ、、、」
彼女はちょっとだけ笑って更にこう言った。
「末吉さんともうちょっと早く出会ってたら私はもっと幸せになれてたかもね」

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その笑顔は鳥肌が立つほど美しく、
そして同時に・・・とてつもなく・・・怖かった、、、

私の自己防衛本能が彼女をそのまま家に帰した。
彼女は何も取り乱していないのだ。
いつでも冷静で、そして真剣で、純粋なのだ。
それが私には身の毛がよだつほど恐ろしかった。
神が私を彼女の最初で最後の男にしなかったことに感謝するほどに・・・

見送り際に彼女に質問してみた。
「男の方を殺すと言う考えはなかったの?」
彼女はさらっと答える。
「全然!」
「どうして?」
「だって愛してるから彼は殺せない。
でも自分が自殺でもして死んじゃったらその後ふたりがうまくやったりするのはもっと許せない。
だったら女が死ぬしかないじゃん!」
極めて冷静に彼女はそう言ってのけた。

彼女はいつだって冷静で、そして美しかった。
「これからどうするの?」
最後に私は彼女に聞いた。

「またやるわよ。今度こそしくじらない」

その後、私は縁あって最初の妻と結婚し、もう彼女と会うこともなく数年の月日が流れた。
そしてある夜の一本の電話が次なる悲惨な事件への序章であったのだ。

続く・・・

Posted by ファンキー末吉 at:01:24 | 固定リンク