
2015年9月21日
映画音楽制作よもやま話・・・
ワシが初めて映画音楽の仕事をやったのは「香港大夜総会」。
その時から渡邊孝好監督にはいろんなことを教わった。
人物などに「テーマ」を作ってそれを場面場面に当ててゆく
という手法はこの時に学んだものである。
今でも映画音楽等の仕事を請け負うと、
まず登場人物を把握して、具象やキーとなるモノ、
例えば「愛のテーマ」だとか「宝石のテーマ」だとか、
まあだいたいいくつぐらい「テーマ」を作ればいいかを考えて、
与えられたファイルの番号と秒数とで場面を指定して、
「M○○:ファイル名○○番○○分○○秒:○○のテーマ○○バージョン」
とかいう「表」を作成する。
あとはこれを元に張張やその他優秀な若い衆と手分けしながら作ってゆくのだ。
「M○○番ワシがやったから〜逆に○○番のテーマが思いつかないからそっちやって〜」
とかメールで密に連絡取り合いながら、ファイルはお互いに送りあって共有し、
双方のパソコンでそれぞれの映像に貼り付けて同じものを見れているようにする。
生楽器が必要な曲はそのMIDIファイル
(当時はお互いQuBassを使っていたのでQuBassファイル)
を送ってもらってこちらのスタジオで録音する。
まあこれで順調に仕上がった映画もあれば、
この「人物ごとにテーマを振り分ける」ことに縛られ過ぎて暗礁に乗り上げることもあった。
「この人物だから必ずこのメロディーを使わなくてはならない」
という縛りがあり過ぎると結局はそれに縛られていいものが出来なくなってしまうのだ。
「Funky、映画音楽で一番大切なものは何かわかるか?
"气氛(雰囲気)"だよ!!これが一番大切なんだ!!」
ワシが音楽をやって2006年に大ヒットとなった映画「疯狂的石头」の監督「宁浩(NingHao)」がワシに言ったこの一言が今では「バイブル」というぐらいまでになってしまっている。
この映画はワシの中国でも大出世作となってしまったが、
いかんせんギャラが法外に安かったことも有名になってしまい、
「金がない時はファンキーに頼めば何とかなる」
となってしまってもうやってられなくなってしまった(>_<)
何せひとつ映画音楽を請け負ったら数ヶ月はパソコンの前でずーっと同じ姿勢で座り続けてゆくという生活になってしまうのだ・・・
多い時には1年に映画一本とテレビドラマ数本を請け負ってたので、
まさに安いギャラで不眠不休の生活が続く社畜ならぬ「映画畜」である(>_<)
方言(FangYan)がまだうちに来てなかった頃は、
場面ごとの音楽の指定から出来た音楽を画面に貼り付けるのまで全部自分でやってたのだから死ぬほど忙しい・・・
ひとり仕事の最後にやったのは確か中国のホラー映画で有名な監督のコメディー(笑)
(「疯狂的石头」がコメディーだったので必然的にコメディーばっか来る)
この監督は外国映画のパロディーを多用してその音楽とそっくりな音楽を全ての画面で要求するから大変だった(涙)
例えば「ゴースト」のろくろを回す場面でのプレスリーの「アンチェインド・メロディー」、それと全く同じオリジナル曲を求めて来るのだ・・・(号泣)
映画音楽は「气氛(雰囲気)」なんだから、
シンセ一本でも上手くやれば非常に効果的なBGMとなる。
ところが「歌モノ」を求められるとフルコーラスのメロディー作って、
アレンジしてバッキング全部フルで作らなければならない。
おまけに詞!!
韓国の映画のパロディー部分では朝鮮族中国人に朝鮮語で詞書いて歌ってもらいましたがな(涙)
「だってアメリカの映画なんてよく詞の入った音楽使ってんじゃん」
監督が胸張ってそう言うので、
「版権買い取ってそのまま使いなはれ!!!」
とつい怒鳴ってしまった(笑)
その時に使ってた若い衆が「赵兆(ZhaoZhao)」というキーボティスト。
もうやってられなくなったのでそのまま彼に丸投げしたら、
それを足がかりに2008年の北京オリンピックでは開幕式だか閉幕式だかの音楽の一部を担当するまで登り詰めよった!(◎_◎;)
いや、いいのよ。ワシは別に若い衆を使って楽して金儲けしようなどとはこれっぽっちも思っていない。
ワシはどうせどこまで行ってもドラマーだし、
ドラムやめて映画音楽家として一生暮らすつもりも毛頭ない。
ワシの知ってることは何でも教えてやるから、
映画音楽家になりたいヤツはワシを踏み台にしてどんどんのし上がってゆけばそれでいい。
そう思うのには少々わけがあって、
実は「疯狂的石头」の時にワシがどうしても「气氛(雰囲気)」を理解出来ないということで、
最後の最後に「雰囲気モンのBGMだけ誰かに発注しよう」ということになった。
そこで連れてこられた人間がたまたまワシとも知り合いだった「原芸(YuanYi)」という人間・・・
まあ数シーンにBGM当てて彼の仕事は終わったのだが、
ポスターやクレジットには「音楽」のところにファンキー末吉と共に彼の名前がクレジットされている!(◎_◎;)
そのお陰で今や彼は一躍映画音楽家としてかなりの地位に登り詰めてしまった・・・
その後方言(FangYan)がワシのところにやって来て一緒に音楽をやるようになるのだが、その時にワシにこんなことを言った。
「原芸(YuanYi)さんとこは今や工場みたいになってて、若い衆10人ぐらい抱えてそれに全部仕事やらせて大儲けしているというのに貴方は一体何なんですか」
その後何かのパーティーで原芸(YuanYi)と会った時に、
昔は貧乏なロックミュージシャンだった彼が、
ブランド物の服を来て宝石類の装飾品まで身につけているのに少々カチンと来た。
同じ大ヒット作に名前を連ねて、その利用の仕方で人生はこうも変わるものなのか・・・
まあ自分が「うまくやれなかった」という「嫉妬心」もあるのかも知れない・・・
でもそれからというもの(元々性格的にそうなのだけれども)
若い衆の上前をハネたり、そんな風にして金を稼ぐのだけはやりたくないと強く思ったものだ。
だからワシは一緒に仕事をやる若い衆には必ず自分の取り分を削ってもちゃんと十分な報酬は渡す。
(全体が少ないのでもらった人が十分と思うかどうかは別にして、それでブランド物の洋服や装飾品を身に纏う気には全くならん)
通常クライアントには下請けは紹介しないものだが
(紹介すると自分を飛ばして直で仕事を取り始めるゆえ)
ワシはむしろどんどん紹介して、映画音楽家として羽ばたきたけば直で頑張ればいいぐらいに思っている。
原芸(YuanYi)はロックバンドでキーボードも弾いていてワシとはそこで知り合ったのだが、
彼は映画音楽家としてこれだけ知名度が上がったらもうバンドなんてやってられないだろう。
逆にワシはどれだけ映画音楽家として知名度が上がったとしても、
ドラムだけはこれ絶対にやめるわけにはいかない。
逆にドラムのためなら映画音楽なんていつでもやめたっていいのだからこりゃもう立場は「逆」である。
まあそんなこんなもあって、これだけ中国の映画音楽界で名前があっても、
ワシは今だに映画音楽は「アマチュア」なんだなと思うな。
前回マグロ漁船のヨウヨウさんから自分がやり切れない映画音楽の仕事をちょびっと手伝ったが、
結局ワシのやった仕事では監督のOKが出ずにヨウヨウさんがやり直して、
その仕事を見たらやっぱ「プロは違うなぁ・・・」と感心した。
彼の場合はもうDEMOの段階から生のストリングスオーケストラを使うのだ!(◎_◎;)
「監督なんてDEMO聞いてそれから生を想像するなんて出来ないからね。最初から生の方がOKが出やすいんだよ」
と言うが、
長い経験の中で「これは絶対にOKが出る」という確信があるからこそ出来る技である。
ワシもオーケストラが書ける(アレンジ出来る)というのは映画音楽をやる上においては非常にメリットとなったが、たかだか「書ける」レベルからこのレベルまでにはまだまだ長い階段を登らなければならないんだなと実感した。
ヨウヨウさんの場合は奥さんがマネージメントから始まって、
クライアントが喜びそうな方向性まで旦那に説明出来るので羨ましい・・・
やはりワシぐらいの中国語力で初対面の監督と完璧に意思疎通するのは難しいので、
方言(FangYan)が来てからというもの、必ず彼を交えて打ち合わせをして、
監督の意志を後からゆっくり彼に噛み砕いて説明してもらうことにしている。
・・・というわけで前置きが長くなったが、
今回の仕事、最初にその映画会社のプロデューサーと会うのも彼に一緒に来てもらった。
もうね、ここが「勝負」なの!!
まだ正式に契約してない段階で、ここで話が全然噛み合わなかったら
「この人大丈夫かなぁ〜他の音楽監督探した方がいいんじゃない」
になるので必死である・・・
そもそも今回の仕事は、今や映画音楽家の大家となってしまったLuanShuのお兄さんLaoLuanからの仕事である。
このプロデューサーのいくつかの映画もLuanShuが音楽をやったらしく、
LaoLuanも来てくれたので旧知の仲よろしく会話が弾む・・・。
方言(FangYan)が会社のスタッフと一緒に映像データをコピーしに行った時なんか、
もしLaoLuanがいなかったら、このプロデューサーと二人っきりで30分話が持ってたか不安である・・・
結局LaoLuanとプロデューサーが昔話で盛り上がってる中、無事に映像データをコピーして持って帰った。
ここからが大変である。
何せ45分ドラマの41集をこれから全部見なければならないのだ(>_<)
映画ならせいぜい2時間も見れば終わるが、テレビドラマの大変なところはここである・・・。
ドラマの内容はいわゆる「抗日」、しかし炎上しないように言っておくが、
第二次世界大戦を扱ったドラマは日本帝国主義と戦ったアジア諸国にとっては全て「抗日」である。
いわゆる「反日」の片棒を担いでいる仕事ではないことは一応ここに記しておこう・・・。
まあ想像するに一党独裁の検閲の厳しいこの国で、「抗日」とつけば許可が下りやすいのだと思うが、
ワシにとっては疯狂的石头のヒットによってコメディーばっかやらされてた時代から比べて、
こうして「戦争映画」まで発注が来るようになったことは喜ばしいことである。
何せ戦闘シーンにはメタルが合うからのう・・・
ミッション・インポッシブルとメタリカの関係のように、
ワシの頭の中では既にX.Y.Z.→Aの曲を使うことが大前提になってしまっている。
オープニングテーマは「緊張感のある音楽で」ということなので、
すぐに思いついたのは、アルバム「IV」に収録されている「Susperium」、
ライブでもほとんど演奏してないコアな曲である・・・
この曲のマルチは手元にないので、ではということで録り直すことにする。
こんな時にスタジオに常駐しているベーシストがいると楽である。
ギターは・・・というと小畑は最近こちらに近寄って来ない(?)ので・・・
・・・と思い出した!!居酒屋兆治の田端さんの息子がメタルをやっていると言ってたではないか!!
というわけで翔くんに音源送って「コピーしといてね」!!
そして中国語詞を老呉(LaoWu)に発注!!
翔くんも近所に住んでるし、詞もかけて仮歌も入れられるボーカリストが院子にいるということは非常に便利である。
(突然映像を見せられて詞を考える老呉(LaoWu))
かくして「Susperium中国語版」が出来上がった!!
布衣(BuYi)の新曲として発売してもいいほどのいい出来である。
これだけではと思い、X.Y.Z.→Aのアルバム「WINGS」に収録されている「For Whom The Bell Tolls」のアコギバージョンを打ち込みで作っておく。
この曲はもともとバラードだったのぢゃよ。
ヒロインの心情にぴったりなので一応そのヒロインのテーマとして、
あわよくばエンディングテーマとして使えればと思ってちょちょいとDEMOを作る。
後はそれを方言(FangYan)がいいプロモーショントークと共に制作サイドに送りつければ第一段階としてはOKである。
しかし今度はそれを聞いたLaoLuanから厳しいメッセージが・・・(>_<)
「Funky、何考えてんだ!!歌モン作ってどうすんだよ!!映画のオープニングテーマってのは例えばこんなのを書くんだよ」
参考として送られて来たのが先日のLuanShu青島音楽会でも演奏したこの曲・・・
この世界観で緊張感のある音楽って難しいなぁ・・・よし!!
とばかり思いついたのがこの「Susperium」のオケにオーケストラを入れてインストにする!!
というわけで徹夜してストリングスとホルンを入れて送りつけておく・・・
すると今度は布衣のツアーに出ている方言(FangYan)から
「Funkyさん、あれだと緊張感が下がって歌バージョンの方が全然いいです!!」
アホか!!歌があかんと言うから徹夜して作ったんやないかい!!
「Susperium中国語版」を聞いた制作側から、至急にということでミーティングのスケジュールを出される。
ワシは制作側がLaoLuanと同じく「何考えてんだ!!」になってたらどうしようと気が気でない・・・
でもLaoLuanからのメッセージでは
「インストバージョンは中々いいんじゃない」
と方言(FangYan)とは真反対の意見だったのでちょっと安心。
まあいずれにせよ、このミーティングの時にある程度満足出来るものを出しておかないと仕事自体が流れてしまう可能性もあるのである。
焦ってまた徹夜して全く違うアプローチの曲も提出しておく・・・
かくして監督と初対面ミーティング。
開口一番に監督はこう言った。
「デモを聞きましたが・・・メタルは困るなぁ・・・個人的には好きなんだけどお年寄りも見るドラマなんで・・・」
(>_<)・・・仕方ない、ここで諦めては仕事を失ってしまう・・・
パソコンを出してプレゼンする。
「インストバージョンは聞きましたか?」
こういう時のために数多く送っておくと役に立つのだ・・・
パソコンでインストバージョンを監督に聞かせる。
「うん、劇中には使えるかも知れないけどオープニングはねぇ・・・」
まあ劇中に使えれば何とかレコーディングした甲斐はあるというものだが、
何かひとつぐらい決定稿がないと仕事自体がボツってしまう可能性もある・・・
「ヒロインのテーマは聞きましたか?」
聞いてないというのでその場で聞かせる・・・
「うん、これはいいんじゃないかなぁ・・・エンディングテーマとしてもいいかも知れない・・・」
よっしゃー!!ひとつゲット!!
あとはオープニングテーマを作り直せば何とかなるだろう!!
緊張感があって、
インストで、
年寄りが聞いても楽しめる
オシャレでPOPな、
Clubミュージックサウンド
・・・って緊張感とオシャレでPOPなClubミュージックって何か同居しないような気がするんですけど・・・(>_<)
まあいい!!不可能を可能にするのが職業音楽家のプロフェッショナルである。
頑張って作るのぢゃ!!←イマココ