
2012年8月 3日
テレビドラマの仕事は続く・・・
「6月いっぱいの〆切やったんちゃうんか!!」
と思わず突っ込みたくなる。
中国では〆切を守らないのは〆切を作った方だったりするから笑うしかない。
1本目に受けた仕事は会社に経験者が少ないので言うことがころころ変わるし、
2本目は社長の美人秘書が口走った意見が、
監督を飛び越えて絶対命令として伝えられたりするから大変である。
そのふたつを同時進行でやってるのだ(凄!!)
「僕もうやってられません!!
音楽を映像に貼付ける専門家雇っていいですか?」
方言(FangYan)から泣きが入る。
ワシはもともと
ギャランティーの中から経費として半分は使うつもりで計算している。
スタジオがあるのでスタジオ代はかからないし、
ミュージシャンや作詞家(これはお隣の老呉なのだが)、
そして制作を発注するいろんな仲間に
たくさんお金を落としてあげられればそれでよい。
その経費まで節約することはないのだ。
仲間にバラまくつもりで使い切ってしまえばそれでいいのだ。
しかし「仕事」というのは長引けば長引くほど「時給」が低くなっていってしまう。
「僕ら、もう日雇い労働者ぐらいの時給ですよ」
方言(FangYan)が泣きを入れる。
1本目の会社は金払いがよく、前金の半分はもとより、
大部分の音楽は作ってしまったので更に30%くれている。
しかし仕事が遅い(涙)
2本目の会社は言うことがむちゃくちゃな上に金払いが悪い(号泣)
「前金受け取らんかったら絶対仕事始めんからな!!」
強く言っておいたので何とか前金はもらったがいつ終わるかわからん(泣)
主題歌を歌う歌手は女性の予定だったのが
いつの間にやら男性に変わっとる(ごうなきびっくりまあく)
男性だったら隣の老呉(LaoWu)、
女性だったらBeiBeiんとこのボーカル安敏捷(An MinJie)ということにしてたのだが、
いつの間にやら「歌手はこちらで決める」と言い出しとる。
「そのギャラはこっちは出さんぞ!!会社側持ちやぞ!!」
固く確認させる。
そりゃそうだ、有名歌手なんか連れて来られた日にゃ
そのギャラでワシらの制作費なんていっぱつで吹っ飛んでしまうのだ。
「女性歌手はまだ探してるそうです。
男性歌手は周晓鸥(Zhou XiaoOu)に決まったそうです」
脱退した零点(ゼロポイント)のボーカルではないか!!
彼とはいろんな物語がある。
彼らの6万人スタジアムコンサート。
リハーサル中にメンバーは喧嘩を始めるし、
金だけはちゃんとくれたけど内容は想像を絶するほどぐしゃぐしゃであった。
(まあそれも中国では「普通」か・・・)
そんな中にWyn Davisをアメリカから呼んでライブレコーディングしようと言うのだから
当時ワシのストレスはもう限界に来ていた。
着いてみたらWynの要求した機材が全然揃ってない。
ワシは昼から夜から機材探しに走り回る。
見るに見かねたレコード会社の社長がひとつ探してくれた。
でもあとひとつ足りない。
「確か周晓鸥(Zhou XiaoOu)の自宅スタジオに同じのがあったような・・・」
社長はその足でたまたま会社に来ていた彼に聞いてくれた。
しかしその時に彼は社長にこう答えたのをワシはたまたま聞いてしまったのだ。
「あれは俺個人の機材だ。これはバンドの仕事だろ?
個人のものをバンドには提供出来ないよ」
ワシは無性に腹が立った。
「俺は誰のためにこれだけ頑張ってんだ!!
お前らバンドのためだろ!!つまりお前のためだろ!!」
それ以来彼にはあまりよくない印象を持っていたが、
時が経てば何となく分かる。
ぐしゃぐしゃのバンド内で彼もいい加減バンドに対して限界だったのだろう。
その後数年で彼はバンドを脱退した。
今ではソロボーカルとして、また映画やドラマに大活躍の「大スター」である。
まあLuanShuが仲良くしてるので何度も一緒に飲むし、
彼の曲を録音してあげたりしたが、
「スターはワシなんかより同じような人達と一緒にいればそれでいいだろ」
とワシは思っている。
ワシは周りの貧乏なミュージシャン達と一緒にいる方が全然楽しいのだ。
さあ、というわけで今日は彼の歌入れ。
ドラマの制作会社はどうしてもワシにディレクションしてくれと言う。
「あいつなんか自分のスタジオで自分で録ったらそれでいいだろ」
映画音楽のイベント用の曲もそうやって録ったし、
まあ二井原がいつもひとりで自宅で録るようなもんである。
「しょせん彼らは有名人が好きなだけなんですよ!
だいたいそんな金があるんだったら僕らにもっとくれるべきですよ!
彼ひとりで僕らの制作費全部持ってゆくじゃないですか!!」
どうも腹の虫がおさまらないようだ。
こいつとずーっとあーだこーだ言っててもしゃーないので
一緒にLuanShuのスタジオへと出発する。
「このスタジオ代もあっち持ちやからな!!」
もちろんそう念を押してである。
久しぶりの再会。
「ファンキーsan!!久しぶり!!何しに来たの?」
彼はこれがワシの仕事だということを知らない。
「え?ファンキーsanの曲なの?そりゃ早く言ってくれないと」
早く言ってたっつうの・・・
「曲?聞いてくれた?・・・」
「え?まだ聞いてないけど?大丈夫!!聞いたらすぐ歌えるから」
それは間違いない。
ワシも彼なら1時間、
遅くても2時間でレコーディングは終わると思って来ている。
もう一緒に零点(ゼロポイント)のアルバムを2枚も作ってるのだ。
彼の歌の上手さはじゅうじゅう知り尽くしている。
レコーディングが始まった。
ワシはパソコンを広げてこの原稿を書きながら聞いている。
「ほら見てみぃ!!あいつの歌に問題なんかあるわけないんじゃ」
そう思いながら聞いていたが、
逆にどんどん彼の歌に引き込まれていった。
これ・・・まるで零点やん・・・
そりゃそうだ!!
これは中国のロック史上一番金を稼いだバンドのボーカルの歌なのだ。
数年前一緒に零点最後の2枚のアルバムを作った時の、
いろんな思い出を思い出しながら懐かしくなって、
いつの間にかパソコンの蓋を閉じてディレクションをしていた。
毎回語尾の処理の仕方を変えて工夫するのだが、
そのいちいちが「零点」なのだ。
後期の数年間しか一緒に仕事しなかったが、
あの数年もワシにとっては「青春」だった。
そしてそのもっと前から、全ての中国人はそれに熱狂し、
それに自分の「青春」を重ねた。
歌い終わった頃にはワシは立ち上がって絶賛した。
「お前・・・やっぱ上手いわ・・・」
制作会社が彼に払う金だけの価値はあると思った。
「いやいや、ファンキーsanの曲がいいんですよ」
その芸能界っぽい「褒め合い」には興味はないのだが、
ドラマの制作会社の人達も来てるので、
言わばこのパフォーマンスもワシの「仕事」なのである。
いつまで経ってもワシは零点最後のプロデューサー。
そして彼の「仲間」であり「先輩」である。
今でも大スターの彼がワシを立てる。
それを見て制作会社は少ないけどワシに支払った金は価値があると思ってくれればそれでいい。
あとはエンディングテーマ曲・・・誰になるんじゃろ・・・
有名女性歌手は知り合いじゃなかったらなかなか大変やぞ・・・(怖)