2021/06/02
布衣ファンミーティング@河南省開封
河南省開封のライブハウスは河南大学がある学生街の中にある。
翌日のライブの集客動員のためかも知れないが、ライブハウスのオーナーが大学構内にてファンミーティングをブッキングしてくれた。
私は大学を半年で中退しているので、大学のキャンパスはある種憧れである。
キャンパスを歩いていると、もうひとつの選び損なった人生を想う・・・
商売人の家に生まれ、サラリーマンに比べて両親と一緒に過ごす時間も圧倒的に少ない少年時代を経て、5時の定時に家に帰れるサラリーマンに憧れて(日本のサラリーマンは定時に帰れんて笑)、数学の先生かコンピュータ技師になるのが夢だった。
神戸商科大学(現兵庫県立大学)の管理課学科という、いわゆるコンピューター学科で、フローチャートなどを書いて、コボルとかアセンブラとかのコンピュータ言語(今でもあるんか?笑)を使って、部屋一部屋全部占領するような巨大なコンピュータに、穴の開いた紙みたいなので命令を打ち込んでたりした・・・
当時付き合ってた初恋の人に振られたので学校をやめ、親を騙して次の年の学費を元手に東京へと家出したが(笑)、あのまま無事にコンピュータ技師になって家庭を持ってたら、果たしてその時の理想のように「幸せ」に暮らしてただろうか・・・
こんな自分のことだから結構仕事も頑張って、家庭の愚痴でも言いながらそれなりに幸せに生きてたかも知れない・・・などと思いながらキャンパスを歩いて会場に着く・・・
会場ではボランティアスタッフ(学内で商業的な活動は難しいので当然ボランティアなのだが)が設営をしている・・・
思い起こしてみたら大学時代は軽音楽部の部室にしか行かなかったのでこんなボランティア活動なんか一度もしなかったのう(笑)
座席に座って客席(とは言わんのう笑)を見た感じ・・・
司会者(これも学生ボランティア)の説明から質疑応答に入る・・・
まあボーカリストであり、結成時からのたったひとりのオリジナルメンバーでありバンドリーダーであるLaoWuが受け答えをするのだが・・・
意外なことに私への質問が結構多い!(◎_◎;)
こんな音がわんわん響くところでマイク使われたんじゃ全く何を言ってるのか聞き取れないので、隣のLaoWuとかDaWeiとかが通訳をしてくれながら質疑応答が進む・・・
いや〜中国の学生さんはハキハキとモノを喋るのう・・・日本でもこうだったかのう・・・
ドラムに対する質問や、ある学生などは
「あなたのドキュメンタリー映像を見てあなたの生き様に感銘を受けました」
などと言う!(◎_◎;)
これか?まだVIP会員になってないから見れてないがこれか?・・・
まあ私のドラムに憧れて・・・と言うならわかるが、この国では「生き様」が売りになるのか(笑)・・・でも「生き様」はスポーツの記録とかと違って、他とは比べようがない唯一無二のものだからその方が助かるが・・・(笑)
いや〜それにしてもみんな真剣に「ロック」というものを考えて人生の指針にしてるのか、いろんないい質問が飛んで来た。
LaoWuが片っ端からワシに振るので、後半はほとんどワシが喋ってましたがな〜(笑)
彼らの質問に対しては、自分も過去に色々悩んで今に至るので、自分の経験からこのようにアドバイスした・・・
「いくら練習してもドラムが上手くなりません。やれるようになりたいことはたくさんあるのにそれに到達できないんです」
そうそう、ワシも50年近くドラム叩いてて今でもそうよ〜(笑)
ねえねえ、ワシの中国語ってどう思う?決してネイティブみたいに流暢じゃないよね?
30数年、今だに勉強し続けてるけど、ここまで喋れるようになると、こいつら(バンドメンバー)もっと難しい中国語を喋り始める(笑)
音楽に対するテクニックというのはこれと同じなのよ。
単語を知らないと自分の言いたいことも表現出来ない。
それと同じで、テクニックがないと自分の音楽を表現できない。
でもむっちゃ中国語の上手い通訳レベルの人がここで喋ってても、みんなその話聞きたい?
中国語はまだまだ下手だけどみんなワシの話聞きたいでしょ?
音楽もそれと同じよ。
会場:「おお・・・」拍手
「世の中にはクソみたいな音楽が売れてたり、素晴らしいバンドが全く日の目を見なかったりしますが、そのような現状をどのようにお考えですか?」
うんうん、「音楽をやる」「自分の音楽を追求する」ということと「金を儲ける」ということは全く別もんなんだよねぇ〜
かく言う私も、今は音楽でメシ食ってるけど、日本でも自分より上手い素晴らしいドラマーがメシ食えてないって現状を見ると同じこと思うよねぇ〜
クソみたいなドラマーが自分より金稼いでたり(笑)
かく言う私ら布衣の友人にも売れた歌手がいて、彼がこのLaoWuにこうアドバイスしているのを聞いたことがあるんだよね。
LaoWu、お前こんなアンダーグラウンドな小屋でライブやってちゃダメだよ、それじゃぁいつまで経ってもアンダーグラウンドから抜け出せないじゃないか。
小屋は選ばなきゃ。有名な小屋でやってたら、「ああこの人は凄いんだな」って思われて、
上に行ける・・・
でもLaoWuはこの道を選んだんだよね。
あのまま彼が言うように自分をブランドにしていって、ライブを選び、数少ない選ばれたライブだけをやってゆくより、こうして毎日ツアーで色んな小屋で演奏することを選んだ。
だから今があるんだよ・・・
そう、あの時に彼が別の道を選んでたら、今こうして一緒にツアーを廻ることもなかったかも知れない。
ひとつの「選択」がひとつの「縁」を産む。
その「縁」でその「人生」が回ってゆくし、別の「縁」では別の「人生」が回ってゆく・・・
私があの時コンピュータ技師への道を選んでたらどうなってたか・・・
それは誰にもわからない。
結構サラリーマンとして成功してたかもわからないし、音楽への夢を諦め切れずに中途半端な人生を歩んでたかも知れない。
「入るのは難しいが出るのは簡単」と言われる日本の大学生と違って、中国の大学生の勉強はそれはそれは大変であると聞く・・・
私も去年カンボジアで暮らしてて、何かやらねばとクメール語を勉強しに3ヶ月学校に通った。
私の頭では、たった1時間の授業のために予習復習を8時間やらなければ勉強についてゆけなかった。
それを各教科毎日何科目もやるんだからそれはそれは大変だろう・・・
でも「やろう」と思って始めた「勉強」は、大変だったけどそれはそれで楽しかった。
学生たちも「ロック」を聞きながら色々悩んでるのであろう、最後に「自分の目指す道」についての質問が来たので、私はこうアドバイスした。
世の中には金の為なら人を騙してまで金儲けする人がいる。
名声の為なら人を蹴落としてまでのし上がってゆく人がいる。
どうしてか?
それは自分の進むべき道(中国語で「方向(FangXiang)」という言葉を使った)が見えないからだよ。
自分の「方向(FangXiang)」が見えない人は、金や名声を手に入れれば取り敢えずそれでいいと考える。
私はある時期、金も名声もある程度手に入れたけど、そんなに「幸せ」ではなかった。
自分のやりたくないことをやって手に入れたものはそんなに「幸せ」を産まない。
自分のやりたいことをやって手に入れたものは、小さくても「幸せ」である。
幸福在哪里?(幸せはどこにある?)
幸福在这里!(幸せはここにある!)
「方向(FangXiang)」さえ見つかれば、人生はただそれを歩むのみだから、金や名声で人と比べながら生きる必要もない。
自分の道を歩むのもそれなりに大変だけど、自分が好きで選んだ道ならそれなりに楽しいと思うぞ。
だから、自分の道がまだ見つからない人は、決して手っ取り早く「金」とか「名誉」に走らない方がいい。
そこには決して「幸せ」はないよ。
幸福在哪里?(幸せはどこにある?)
幸福在这里!(幸せはここにある!)
早くそれが見つかるといいね・・・
学生相手にそんな話をしながら、師匠「村上ポン太」さんのことを思い出した。
追悼文:師匠旅立つ!!
師匠は「心の師匠」ではあるが、決して一度たりともドラムを教わったわけではない。
師匠のドラムを聞いて「自分もこう生きよう」と思っただけである。
師匠の人生と自分の人生は全く違うものなのであるから、決して師匠と同じ人生を歩んでいるわけでない。
ただ師匠の背中を見ながら「自分の人生」を歩んでいるだけなのである。
スポーツ競技などと違って人生に「点数」はつけられない。
だから「競争」する必要は全くない。
自分よりも金持ちを羨んだり、「自分はなんでもっと有名になれないんだろう」と悩むこともない。
ただ自分の進む道にはいつも困難は待ち受けているし、それを乗り越えればまた新しい困難が待ち受けている。
いつまで経っても中国語が上手くならないのと同じで、いつまで経ってもドラムは理想通りには叩けない。
でもこうして中国語喋って暮らしてるし、こうしてドラム叩いて生活している。
自分の道は果てしなく遠く続くけど「ここまで来た」と思えば、歩んで来たこの道も結構果てしなく長く歩んで来たものだと思えて来る・・・
それはきっとパラレルワールドのどこかでコンピュータ技師か数学の先生をやってる別の自分だって同じだと思うぞ・・・
頑張れこの国の悩める若者よ。
ワシの人生が少しでも君らの為になるんだったら本望じゃぞ〜

