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2009/05/02

年金払い損

その男、どちらかと言うとかなりアホである

浮き沈みの激しい人生を送っていると思われるが
どちらかと言えば貧乏な方が長いようだ
「江戸っ子は宵越しの金は持たへんねん」
と言いながら江戸っ子でもないのに持った金はキレイに全部使い切る

そんな男がどう言うわけかまた突然ちょっと金持ちになってしまったもんだから
「にわか江戸っ子」よろしくまたキレイに使い果たす
既にその金はもういくらも残っていない。

ところがそうやって再び貧乏になっての苦労というのは
彼も何度も経験しているうちにもうイヤと言うほどわかっているのだから
今度ばかりは金がなくなって来ると彼らしくない「不安」が頭をよぎって来る

だいたいにしてこのような男は
往々にして攻めにはめっぽう強いが守りにまわるとからっきしであるのが常である
また若い頃から人に迷惑ばっかかけて生きて来たもんだから
「世のため人のため」という言葉にはめっぽう弱い

そんな男がテレビかなんかで
「年金は世代を超えた助け合いだ」
みたいなことを耳にしたもんだから大変である
「どうして俺は一度も年金なるものを払ったことがないのか?これでいいのか?」
自分の母親は若い頃に年金を払いその当時の年寄りを助けた
そして今は若い人が年金を払い母親を助けている
ところがその息子が一度も払ったことがないでいいものなのか、と

折しも引っ越して来た八王子市から年金の催促が来た
彼は丁重にこう聞いた
「今まで一度も払ったことがないが今からでも払えるのか」と

「大丈夫ですとも」
役所の人は明るくそう言い放つ
彼はもうわずかになった有り金全てを手にして役所に向かった
「世のため人のため」
彼は手にした全てのそのお金を先々の分まで全部前納すると言い出したのだ

びっくりしたのは役所の人である
「前納は一年分しか出来ません」
彼はしぶしぶ一年分だけ前納し、
残ったわずかなお金を握りしめて家路についた
非常に気持ちがよかった
いいことをした実感と
これで老後が安泰であるという安心感とがあったのだろう

しかし神はこの男に決して「安定」というものを与えない
もし本人が少しでもそのような考えを頭によぎらせたときには
神はいつも容赦なく罰を与えていたことを彼はもう忘れてしまっていたのか

しばらく経ってまた年金関係のニュースを見て彼は愕然とした
年金は25年以上納め続けてないと給付されないのだ
今の彼の年齢ではあと10年そこそこでもう受け取りの時期である
とてもじゃないが25年も支払い続けられる年齢ではない

彼は役所に飛んで行った
支払った領収書を提出し
自分が果たして給付を受けることが出来るかどうかを調べてもらった

現在の法律では過去3年まで遡って払えると言う
しかし彼の年齢ではそれでも全然25年に足りることはない
何せたった「今年一年だけ」支払ったことがあるのみである
「外国で住んでいればその年数は除外される」と聞いて小躍りしてはみたが
彼のように住所をずーっと日本に置きながら
しかも毎月数回日本に帰って来ているという場合は
外国に「住んでいる」のではなく外国に「行っている」
つまり法律的には「ただの旅行好き」としかみなされないのである

「どうしたもんですかねえ・・・」
役所の人は二人がかりで一生懸命考えてくれる
「学生だった時代は親の扶養家族なので除外されますが・・・」
またちょっと小躍りしてしまうが
大学も19の時に中退してるのてわ成人してからは扶養になってない
「就職してる時に厚生年金かなんかに入られてた時は?」
と聞かれても
「まっとうな会社務めをしたことが一度もないんで」
と頭をかくしかない

「それじゃあ奥さんの扶養になってるところが除外されますよ」
役所の人の顔が一瞬明るくなるが
この男、貧乏な時でも一応嫁は自分で扶養しているので該当されない

この辺からは今度は役所の人がこの男のことがよく理解出来なくなってくる
まっとうに働いたこともない男が誰の扶養にもならず
かと言って年金をぽんと前納するんだから金がないわけでもなさそうである
およそ年金を扱う役所で働いていたらまず会うことはないであろう人間である
いったいこの男はどんな生活をしているのか・・・

変な注目を浴びながら
男は意を決してこう言った
「どうあがいたって給付されないんだったら前納したお金返してもらえませんか」
役所の人はますますこの男のことがわからなくなる
金持ちなのか貧乏なのかよくわからない。
見るからに
「僕今から貧乏に突入するんです」
というような顔をしてこんな相談に来るぐらいだったら
どうしてあの時あんなに気前よく前納なんかするんだろう・・・

彼はあきらめてとぼとぼと役所を後にした
「世のため人のため」に1年分の年金を無償で寄付した
ただそれだけのことである
なんのことはない
また昔の貧乏に戻っただけの話である

年金はもらえない
しかし彼の周りのミュージシャンは全て同じである
共に楽しく生き、そして共に楽しく死んでゆこう

彼は仲間の待つ村に帰って行った

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